名探偵コナン「ゼロの執行人」考察&解説!注目したい演出や伏線を説明します
2018年公開の劇場版『名探偵コナン ゼロの執行人』。
シリーズ第22作目にあたり、興行収入はシリーズ最高の91.8億円を記録した作品です。
安室透の人気が社会現象になり、「安室の女」と呼ばれる新規ファンを多数獲得した作品でもあります。
『ゼロの執行人』の監督はコナン初参加の立川譲さん、脚本は相棒シリーズでおなじみの櫻井武晴さん。
この作品は従来の劇場版コナンと違い、最初から最後まで緊迫感にあふれた、やや大人向けの作品に仕上がっています。
そのため一度見ただけでは理解しきれない部分や、これまでのコナンにない表現・伏線・演出なども盛りだくさんです。
この記事では、ゼロの執行人の伏線や演出にこめられた意味などを、考察を交えながら解説しています。
ゼロの執行人を視聴しながら、もしくは視聴後にお読みいただいて理解を深めていただけると嬉しいです。
- 1. 『名探偵コナン ゼロの執行人』あらすじ
- 2. 『名探偵コナン ゼロの執行人』解説と考察
- 2.1. なぜ爆発が事故だと思われたのか
- 2.2. 毛利探偵事務所での風見裕也に注目
- 2.3. 高木刑事から情報収集するコナン
- 2.4. ポアロから出てくる安室透
- 2.5. 妃英理の机の上にあるファイル
- 2.6. 朝陽がコナンを象徴している電話ボックスのシーン
- 2.7. 哀が爆発物を特定するシーン
- 2.8. 橘境子と日下部誠が登場
- 2.9. 岩井紗世子と日下部誠の言い争い
- 2.10. 3つの『公安』について
- 2.11. 安室透は何のために警視庁に来たのか
- 2.12. 安室透がコナンをスマホで監視しているシーン
- 2.13. 安室透と榎本梓の買い出しシーン
- 2.14. 風見の「安室という男は人殺しだ」
- 2.15. 公安が捜査していることを知っていた橘境子
- 2.16. 日本橋での安室と風見のやりとり
- 2.17. 羽場二三一について
- 2.18. コナンと安室のやりとり
- 2.19. 長野県にある国立天文台からの中継シーン
- 2.20. 日下部誠が犯人だと判明
- 2.21. 岩井紗世子はなぜ出世したのか
- 2.22. 安室透はいかにして羽場二三一を生かしたか
- 2.23. 日下部がNAZUに不正アクセスして書き換えたコード
- 2.24. 歩美・光彦・元太が3人でドローンを操縦した意味
- 2.25. 黒田兵衛の口パクシーンはなんと言ったのか
- 2.26. 橘境子と羽場二三一・風見裕也
- 2.27. コナンと安室の協力関係における役割分担
- 2.28. 『僕の恋人は…』に見られるコナンとの対比
- 2.29. エンドロールに挿入されたエピローグシーン
- 3. さいごに
『名探偵コナン ゼロの執行人』あらすじ
東京湾の統合型リゾート施設「エッジ・オブ・オーシャン」で東京サミットが開催されることになった。
同じ日に火星から帰還する大型無人探査機「はくちょう」のニュースをコナンと哀が見ていると、エッジ・オブ・オーシャンの国際会議場で大規模な爆発事故が起こったとの臨時ニュースが入ってきた。
爆発の映像の中に、一瞬安室透の姿を見る哀。
そして、その爆発事件の犯人として逮捕されたのは、なんと毛利小五郎だった。
警視庁公安部の強引なやり口に、コナンは『今回の安室さんは敵かもしれない』と疑問を抱くが、小五郎を救うため行動を開始する…。
『名探偵コナン ゼロの執行人』解説と考察
時系列に沿って、重要と思われる伏線や演出をピックアップして解説していきます。
なぜ爆発が事故だと思われたのか
エッジ・オブ・オーシャンで起こった爆発。
警視庁の捜査会議で、当初この爆発は事故と結論付けられそうになりました。
その理由は次の通りです。
- 東京サミット当日ではなく、サミット前に爆発が起こった
- 現場に爆発物がなく、ガス爆発と考えられる
- ネット上からガス栓を開け閉めできるシステムが採用されており、システムに最初から不具合があった可能性がある
- 点検を予定していた日に爆発が起こったため、事前に不具合を見つけることができなかった
安室透ら公安は、この爆発が事故ではなく事件だと予想しました。
ですがこのままでは事故として処理されてしまい、捜査ができなくなってしまうため、毛利小五郎を爆発事件の犯人にでっちあげたわけですね。
小五郎はかつて警視庁に在籍していて指紋のデータが残っていたため、容疑者としてうってつけだったというわけです。
毛利探偵事務所での風見裕也に注目
小五郎が容疑者となり、毛利探偵事務所で家宅捜索が行われます。
ここでの風見裕也の動きに注目!
立っているコナンのすぐ後ろにある棚を調べたあと、蘭に「失礼」と言って立ち上がります。
コナンたちに背を向けた時、風見の右手にはすでにコナンのスマホが握られています。
風見がコナンのスマホに遠隔操作アプリを仕込んだ…というのはのちに明らかになりますが、もうこの時点でちゃんと風見がコナンのスマホを抜き取ったことが確認できるようになっています。
初見でこの伏線に気づいた方はいるのでしょうか。
高木刑事から情報収集するコナン
当初、爆発は事件ではなく事故で片付けられるところだった…ということを、コナンは高木刑事から教えてもらいます。
コナンと高木刑事が話しているシーンはごく短いですが、一般人に被害が出なくてよかったという高木刑事の警察官らしいセリフを聞くことができます。
ポアロから出てくる安室透
小五郎が風見に連れていかれたあと、おもむろにポアロから安室透が出てきます。
もちろんこれは偶然ではなく、コナンに接触するためにタイミングを見計らっていたものと思われます。
コナンの訴えに聞く耳を持たず
警察はね、証拠のない話には付き合わないんだよ
というセリフを聞かせることで、コナンに『では証拠を見つけなくては』と思わせるわけです。
コナンを協力者に仕立て上げるための戦略のひとつですね。
安室透がポアロ店内に戻るシーンは
- 夕日に照らされるコナン
- 影が落ちた店内に入っていく安室
という対比が際立つ演出になっています。
『ゼロの執行人』はコナンが光で安室が闇という対比が繰り返し描かれていますので、こういった演出はこの後も度々出てきます。
妃英理の机の上にあるファイル
英理に小五郎の弁護をしてくれるよう頼みに行き、断られてしまう蘭と園子ですが…。
英理は身内が弁護をすると却って不利に働くかもしれないからと断ります。
大丈夫、いい弁護士をすぐ見つけるから
と言う英理ですが…。
ここで映る弁護士の名刺ファイルには、『連絡済』のふせんがついています。
しかも東都大卒で刑事事件に強い弁護士のファイルがピックアップされているんですね。
蘭に言われるまでもなく、英理が頼りになりそうな弁護士探しを始めていたことがわかるシーンです。
朝陽がコナンを象徴している電話ボックスのシーン
安室透が海辺の電話ボックスで風見裕也と電話をしているシーンは、この作品でも特徴的な場面のひとつ。
昇ってきた朝陽を見て、安室透がホッとした表情をします。
ここは朝陽がコナンの象徴として描かれています。
コナンの象徴である朝陽、そして朝陽に照らされる安室…。
コナンが光、安室が闇という作品のテーマをぎゅっと凝縮したシーンでもあります。
哀が爆発物を特定するシーン
ドローンで撮影した撮影現場の映像から、哀が爆発物を特定してくれました。
IoT圧力ポットが爆発したのだということが判明します。
プレストーリーにあたるアニメ第898話『ケーキが溶けた!』を見ておくと、IoT家電について理解しやすくなりますね。
Iotとは
Internet of Thingsの略称。
あらゆるモノがインターネットで接続され、互いに制御する概念のこと。
IoT家電はネットを通じて操作できる電化製品を指し、たとえば家の外からスマホで電源をいれることができる。
阿笠博士はコナンと2人きり、もしくはコナンと哀と3人でいる時は、コナンのことを「新一」と呼びますよね。
このシーンはもちろん安室に盗聴されていますので、阿笠博士がいつものように「新一」呼びしていたらと思うとちょっとヒヤっとする場面でもあります。
橘境子と日下部誠が登場
小五郎の弁護をしたいと妃弁護士事務所を訪れた橘境子。
小五郎の担当になった東京地検公安部の日下部誠。
今作のキーパーソンである2人が、立て続けに登場します。
ここでNAZU不正アクセス事件というワードも登場。
日下部誠と橘境子が裁判を担当した事件です。
この事件は後に重要な意味を持ってきます。
岩井紗世子と日下部誠の言い争い
地検公安部の岩井紗世子と日下部誠が、小五郎の起訴を巡って言い争いをするシーン。
- 岩井が統括検事、日下部が主任検事(岩井は日下部の上司)であること
- 岩井は公安の言いなりであること
この2点が伏線として描かれています。
この時点では日下部は小五郎が犯人であることに懐疑的なので、日下部の方がいい人なのでは?というミスリードを誘うシーンでもありますね。
3つの『公安』について
橘境子がコナンと蘭に、公安部について説明してくれるシーン。
ここがこの映画で一番難しいシーンではないでしょうか。
警察庁公安部(日本国の機関):降谷零が所属
警視庁公安部(東京都の機関):風見裕也が所属
検察庁公安部(法務省の機関):岩井紗世子・日下部誠が所属
検察の公安部は、警察の公安部に歯が立ちません。
そのため、事件の起訴にも公安的配慮が働くことがあり、公安警察から必ず起訴するようにという圧力がかかることもある…ということが説明されています。
安室透は何のために警視庁に来たのか
コナンが目暮警部を尋ねて警視庁を訪れたシーン。
ポアロから差し入れを持ってきたという体で、安室透が姿を現します。
もちろんこれは建前で、風見裕也と接触することが安室の目的でした。
また、コナンのスマホの電池が切れて行動を追えなくなったため、コナンが何をしているか確認する目的もありました。
安室透がコナンをスマホで監視しているシーン
英理の弁護士事務所に戻り、スマホを充電させてもらうコナン。
ここではっきりと、安室がコナンをスマホ越しに監視していることが明らかになります。
ここでも安室は暗い部屋の中にいて、安室=闇ということが強調された演出になっています。
わずかに差し込む光は、もちろんコナンを表しています。
コナンが事件を解く光明になるという暗喩ですね。
安室透と榎本梓の買い出しシーン
安室と梓がコスドコへ買い出しに行くシーン。
風見と接触する場所として、安室がコスドコを指定したんですね。
梓は『あの大きなアイスクリーム』を探しており、店員に聞いてくると言って安室から離れます。
安室は『大きなアイスクリーム』ではなく『業務用のアイスクリーム』と店員に伝えればすぐに在処がわかることを知っていますが、あえて梓にはそれを教えず、時間稼ぎをしています。
梓が
今の時代、誰がどこで聞き耳を立ててるかわかんないんですからね!
と言っているシーンは
- 安室がコナンを盗聴している
- コナンが風見を盗聴している
ことに対する皮肉めいたシーンになっています。
安室も思わず苦笑してしまうわけです。
風見の「安室という男は人殺しだ」
安室の女に大人気の「これでよく公安が務まるな」のシーンののち、風見がコナンに
安室という男は人殺しだ
と語り始めます。
取り調べ相手を自殺に追い込んだ…というのは、この後大きな意味を持ってくるセリフですね。
コナンがこのセリフを風見から聞いていなかったら、のちの推理に影響が出たでしょう。
余談ですが、この日の天気が曇り~雨として描かれているのは、画面を薄暗い色合いにして重い雰囲気を出すため。
天候も重要な演出のひとつです。
公安が捜査していることを知っていた橘境子
公安が捜査をしているから、サーバーの捜査も難しくはないはず…と口を滑らせた境子。
- その手の捜査をするのは公安が多いから
- 通信傍受法で捜査対象になるサーバーの関係者には公安警察の協力者が多い
この2点が境子の口から語られます。
ですが公安がこの事件の捜査をしているというのは、もちろん風見から聞いたことですね。
日本橋での安室と風見のやりとり
日本橋で安室と風見が接触し、他人のフリをしつつも情報交換をしています。
毛利小五郎を解放すること、刑事部から捜査会議で報告させることを安室が風見に指示しますが…。
風見は
刑事部に花を持たせるんですか。我々公安部から報告すべきです。
と発言しています。
風見の公安としての高いプライドが垣間見えるシーンです。
一方、安室の口からはここで初めて『裏の理事官』というワードが飛び出します。
これまで原作でもテレビアニメでも『裏の理事官』という言葉が使われたことはありませんでした。
この映画で裏の理事官が登場しているのではないか、それが黒田兵衛なのではないかという今後の展開への伏線になっているシーンですね。
また、安室が
僕には僕以上に怖い男が2人いるんだ
と話しています。
ひとりはもちろんコナンですが、もうひとりは赤井秀一を指しています。
羽場二三一について
栗山緑の調査で、境子が去年弁護士事務所を畳んだことが判明しました。
境子のもとで事務員をしていた羽場は、ゲーム会社に侵入して窃盗事件を起こし、拘置所内で自殺しています。
それがきっかけで境子は事務所をたたみ、ケー弁になりました。
あれは二三一のせいじゃない!私が無力だったから…
境子はこう語っています。
この『無力だったから』はどういう意味でしょうか?
境子は公安に羽場を助けるよう頼んだが聞き入れてもらえなかったということが後で明かされますので、単純に境子には羽場を助ける力がなかったと解釈できますが…。
境子が担当していたNAZU不正アクセス事件の調査のため、つまり境子のためにゲーム会社に侵入したのだと境子が解釈した可能性も考えられます。
コナンと安室のやりとり
犯人に気づき、警視庁に向かうコナン。
コナンを監視していた安室がRX-7で追ってきます。
遠隔操作アプリを公安が仕込んだ証拠は?と安室に聞かれ、コナンは
なかったよ。さすがだね
と答えます。
この『さすがだね』はアプリを仕込んだ風見に対する賞賛です。
コナンが仕込んだ盗聴器のせいで安室に叱責された風見へ、コナンなりにフォローを入れたつもりだったかもしれませんね。
事の発端はNAZU不正アクセス事件だと言われただけで、羽場二三一がキーになっていることを瞬時に見抜く安室透。
ここはコナンと安室の間だけで事情の理解が進んでしまい、視聴者がちょっと置き去りになってしまうんですね。
謎はのちのち解けるからいいのですが、コナンと安室の頭の良さが強調されています。
RX-7でコナンを庇った安室。
フロントガラスにヒビが入ってしまい、視界を確保するために安室はフロントガラスを割ります。
安室はものすごい怪力なのでは…!?と思う方が多いのですが、車のフロントガラスは内側からなら意外と簡単に破壊できるようです。
安室はボクシングをやっていますし、パンチ力は一般人以上なので、3回のアクションでガラスを割るくらいはできても不思議ではないですよね。
長野県にある国立天文台からの中継シーン
阿笠博士の家で、長野県の国立天文台からの中継を見ている少年探偵団たち。
この天文台のシーン、劇場版では昼間のように明るくて困惑したのですが、DVDに収録される際はきちんと夜の映像に描き直されていました。
また、阿笠博士が腕時計を見ながら『うぉっちゃ~』と言っています。
ダジャレですね…(笑)
日下部誠が犯人だと判明
テロを起こしたのは日下部検事でした。
安室に取り押さえられてからの一連の会話は、この映画のハイライトのひとつです。
境子が地検公安部は警察の公安に歯が立たないと話していましたが、まさにそれが日下部誠の犯行動機。
公安警察の力が強すぎるために、公安検察が正義をまっとうできないというのが日下部の主張です。
正義のためなら人が死んでもいいって言うのか!
コナンが問いかけますが、公安警察以外の死者が出ないよう配慮はしたという日下部検事。
羽場二三一が犠牲になったことが、日下部の復讐心に火をつけてしまったんですね。
公安検察の協力者として動いていた羽場が公安警察に逮捕され、取り調べの後に拘置所で自殺…。
日下部の正義のためなら多少の犠牲はやむをえないという主張は、羽場が死んだからこその言葉なんですよね。
岩井紗世子はなぜ出世したのか
日下部は逮捕された羽場を助けたい一心で、彼の窃盗事件を担当する検事=岩井紗世子に事情を話しました。
ですが岩井は『羽場を起訴する』の一点張りです。
日下部は岩井に対しても腹を立てていたようですが…。
公安警察に羽場が日下部の協力者であったことを話したのは、実は岩井紗世子なんですよね。
日下部と羽場が協力関係にあったことを知っているのは、日下部と羽場以外では、日下部から事情を打ち明けられた岩井だけ。
羽場が取り調べで協力者であることを明かしていない以上、岩井の口から公安に伝わったと考えるのが自然です。
岩井に『日下部と羽場を助けたい』という思いがあったかどうかは不明ですが…。
彼女が公安警察にリークしてくれたおかげで、結果的に羽場は安室透により新たな人生を歩み始めることができました。
この件で岩井は公安警察にも『彼女は公安警察の言いなりになる』と評価され、統括検事への出世に繫がったわけですね。
安室透はいかにして羽場二三一を生かしたか
岩井紗世子から羽場二三一が日下部検事の協力者だと聞かされた安室は、取り調べと言う名目で拘置所内の羽場に接触。
羽場を自殺したことにして、これまでの人生を放棄させました。
羽場は家族にも友人にも生きていることを隠し、まったくの別人として新たな人生を歩み始めました。
日下部検事に救えなかった羽場を、安室透は救ってみせたわけです。
自らした違法作業は自ら片をつける
という安室の主張は、この映画の中でも何回か登場していますね。
公安の役割を果たすために違法作業に手を染めても、自らの手でしっかり片をつけなくてはならないという安室の信念が見て取れます。
日下部検事には、羽場を助ける力はありませんでした。
力なき正義は無能である、という言葉が思い出されます。
日下部がNAZUに不正アクセスして書き換えたコード
日下部検事はNAZUに不正アクセスし、探査機にアクセスするためのコードを書き換えてしまいました。
コナンたちの説得に負け、白状したコードは…『HABA_231』でした。
スマホのロック番号は『88231』ですし…日下部検事の羽場へのこだわりの強さがよくわかります。
(でも白状するのがちょっと恥ずかしかったのでは…)
歩美・光彦・元太が3人でドローンを操縦した意味
警視庁に落ちてくる『はくちょう』のカプセル。
爆発によって軌道を変えるため、歩美・光彦・元太が3人でドローンを操縦して爆弾を運びました。
博士よりも操縦がうまいからという理由でこの3人がドローンを操縦することになったわけですが…。
実は3人で役割を分担するということに演出上の大きな意味があります。
日下部検事の犯行動機は、警察庁公安部・警視庁公安部・検察庁公安部という3つの公安部のパワーバランスが歪だったための憤りがきっかけ。
それに対し、歩美・光彦・元太の3人は見事なチームワークで日本を危機から救いました。
ここでも『ゼロの執行人』ならではの対比構造が生かされています。
黒田兵衛の口パクシーンはなんと言ったのか
爆弾を爆発させるタイミングを待っている安室と、黒田兵衛が電話で話すシーン。
黒田が最後に安室に呼び掛けるシーンは、口パクになっています。
劇場では口パクシーンは横顔が描かれていましたが、DVD化する際に正面からのカットに修正され、ますます口パクが確認しやすくなりました。
ここは口の動きから、『バーボン』と言っているのは間違いないですね。
黒田兵衛の正体が示唆されている貴重なシーンです。
原作に先駆けて劇場版でキャラクターの正体を匂わせるというのは、『異次元の狙撃手』でも使われた手法。
『異次元の狙撃手』では沖矢に赤井の声で喋らせることで沖矢=赤井だと判明させました。
『ゼロの執行人』では重要なセリフを口パクにすることで正体を示唆させるという、『異次元の狙撃手』とは真逆の表現が使われています。
橘境子と羽場二三一・風見裕也
日下部の協力者だと知らなかったために、羽場がゲーム会社窃盗事件を起こした理由がわからなかった境子。
羽場を助けてくれるよう公安に(風見裕也に、ですよね)必死に頼んだものの、彼女の頼みは聞き入れてもらえませんでした。
その恨みから、無罪であることがわかりきっている小五郎を有罪にしてやろうと思った…と境子は語っています。
『有罪にしてやろうと思った』だけで、実際は境子は何も悪いことをしていないんですけどね。
いくら頼んでも羽場を助けてくれなかったのに、その後も普通に境子に協力者として仕事をさせ続けた…。
風見裕也のアフターフォローが全然なってなかったのでは?と疑問に思ってしまいます。
羽場が検察の協力者であったこと、実は公安警察によって生かされていたこと、今は公安の協力者であることを知って憤る境子。
私は2291よね。じゃあ彼は何番なの!?
境子の叫びには、協力者が公安警察からモノのように扱われていることに対する怒りを感じます。
風見に激しい感情をぶつける境子のシーンは、胸に迫るものがあります。
どんなに憎まれようと、最後まで彼女を守れ
という安室のセリフは、公安警察の在り方を示しています。
コナンと安室の協力関係における役割分担
カプセルがエッジ・オブ・オーシャンに落ちそうなことが判明し、コナンは安室に
今度は僕の協力者になってもらうよ
と言います。
カプセルがエッジ・オブ・オーシャンに直撃するのを防ぐのはコナンの役割。
コナンの指示通りに動き、コナンがカプセルの軌道を変えられるようサポートするのが安室の役割です。
RX-7でビルから飛び出し、コナンはサッカーボールで無事カプセルの軌道をずらしました。
しかしその後、コナンはただ落ちていくだけなんですね。
軌道を変えることだけを考えていて、その後どう生き残るかということはコナンの頭にはありませんでした。
そんなコナンを助けたのは、もちろん安室です!
カプセルの軌道をずらすことが安室にはできない。
その代わりコナンを守ることに注力したわけです。
コナンは
今度は僕の協力者になってもらうよ
と言っていましたが、安室にとってもまだコナンは『自分の協力者』なんですよね。
風見に境子を守るよう指示したように、何があっても最後までコナンを守るという彼の信念が見て取れます。
細かいところまで打ち合わせをしたわけでもないのに、完璧なチームワークでエッジ・オブ・オーシャンにいる人々を守った2人。
見事な連携プレーに驚かされるクライマックスでした。
『ゼロの執行人』の予告映像で銃を構える安室が描かれていた時は、まさか安室が犯人を撃つのかとヒヤヒヤしましたが…。
実際はコナンを生かすために発砲したんですね。
安室さんが人殺しでなくてよかった、と心底ほっとしました。
ちなみに安室の銃はH&K(ヘッケラーウントコッホ)・P7M8です。
『僕の恋人は…』に見られるコナンとの対比
この映画最大の見所?である、安室透の
僕の恋人は…この国さ
というセリフ。
これは青山剛昌先生が考案したセリフです。
ラブコメ大好きで作中にも多数のカップルを登場させている青山先生ですが、だからこそ安室透の恋人は国という設定の重みを感じます。
実はここでも、コナンと安室の対比が描かれています。
『僕の恋人は…』の前に、安室はコナンにこう話しかけています。
愛の力は偉大だな
これは、コナンが蘭のためだけにここまでの行動を起こしていることに対する賞賛や驚きが含まれたセリフです。
エッジ・オブ・オーシャンに蘭がいなくても、コナンは行動を起こしたでしょうが…。
ここまで必死になることはなかったのではと思います。
たったひとりのために命をかけるコナンと、特定の誰かではなく国のために命をかける安室が対比するように描かれているんですね。
おそらく安室にはコナンの気持ちは理解できないでしょうし、その逆もまたしかりです。
コナンの真実と安室の正義は、決して同じものではないのですが…。
それでも決して相手を否定することなく、尊重しあい協力するという2人の関係性が見事に描かれています。
エンドロールに挿入されたエピローグシーン
福山雅治さんが歌うテーマ曲『零 -ZERO-』が流れる中、エピローグとなるシーンが挿入されています。
テレビを見ている小五郎ですが、日下部のニュースが流れているにも関わらず、まったく興味を示していません。
それどころかつまらなそうにチャンネルを変えてしまいます。
日下部のせいで容疑者にされかけたのに、日下部を恨んでいる様子も怒っている様子もないんですね。
過去を振り返らないというか、小五郎のおおらかで懐の深いところがよく描かれています。
また、笑顔でポアロから差し入れを持ってくる安室透も印象的。
出血量から察するに、腕の傷はかなり深かったはずですが…。
そんな様子は微塵も見せず、にっこり笑って差し入れを持ってきています。
作中ではほぼずっと『公安警察の降谷零』だった彼が、『ポアロの安室透』の仮面をかぶり直しているのがよくわかります。
安室としても、テロ事件が解決して安堵している本心が表情に出ているのかもしれませんね。
さいごに
『ゼロの執行人』は安室透がメインに据えられた作品です。
安室が持っている正義の信念と、正義のためには手段も選ばない非情さという彼の裏表が見事に描かれています。
また、コナンと安室を『光と闇』と表現し、2人の対比構造を繰り返し描いているのも印象的です。
コナン目線、安室目線、犯人目線…と、さまざまな目線から角度を変えて楽しめるのも『ゼロの執行人』の魅力です。
何度見ても新しい発見がありますので、ぜひ細かいところまで気を配ってみてください。
この記事をきっかけに、新たな発見をしていただけると嬉しいです!
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