【考察】『ゼロの執行人』羽場二三一と周辺人物との人間関係について
2018年公開の劇場版『名探偵コナン ゼロの執行人』には、複数の劇場版オリジナルキャラクターが登場します。
それぞれに重要な役割を持って登場していたオリジナルキャラクターたちですが、中でももっとも謎に包まれているのが羽場二三一です。
この記事では、羽場二三一と周辺人物の人間関係を軸に、羽場二三一の人物像を掘り下げてみたいと思います。
※この記事には『ゼロの執行人』の重大なネタバレが含まれます。
未視聴の方はご注意ください。
羽場二三一のプロフィール
司法試験を突破し、裁判官を目指していた元司法修習生。
司法修習生を罷免された後、橘境子の弁護士事務所で事務員として働いていた。
事務員事件にある事件を起こして逮捕され、東京拘置所内で自殺している。
享年31歳。
…というのは表向きで、実は生存していた。
安室透が羽場二三一を説得し、自殺したことにしてこれまでの人生を放棄させ、公安の協力者として管理していた。
声優は博多大吉。
『ゼロの執行人』における羽場二三一の行動
『ゼロの執行人』で描かれていた羽場二三一の行動を整理してみました。
羽場二三一は1年前に自殺したことになっていたため、表向きはこのようになっています。
4年前:司法研修所の修了式にて問題を起こし、司法修習生を罷免される。橘法律事務所の事務員になる。
1年前:ゲーム会社Z-FRONTに侵入し、窃盗事件を起こして逮捕。
1年前の5月1日:公安警察による取り調べを受けた後、東京拘置所にて自殺。
作中で明かされた
- 羽場が日下部検事の協力者であったこと
- 羽場が生きていたこと
を考慮して整理しなおすと、こうなります。
4年前:司法研修所の修了式にて問題を起こし、司法修習生を罷免される。日下部誠にこの時の騒動を目撃されている。
4年前:橘法律事務所の事務員になる。
3年前:日下部誠の協力者になる。
1年前:日下部誠の要請により、ゲーム会社Z-FRONTに侵入し、窃盗事件を起こして逮捕される。
1年前の5月1日:安室透に取り調べを受け、彼の提案をのんでこれまでの人生を放棄することに同意。安室透により自殺を偽装され、公安の協力者として生きることになる。
5月1日:日下部誠からパスコードを聞き出すため、安室透に協力する。
たった4年の間に、非常に波乱万丈な人生を歩んでいますね。
羽場二三一と他の登場人物との関係
羽場二三一と日下部誠
『ゼロの執行人』でIoTテロを起こした犯人は、公安検事の日下部誠でした。
日下部と羽場には、非常に強い正義感を持っているという共通点があります。
そのため、日下部は羽場を自分の協力者にして、裁判官や弁護士ではなくても『正義のために行動できる』立場を彼に与えました。
コナン「羽場さんは、自分こそが裁判官になるべきだと思い込むほど、強い正義感を持ってたんだよね。だからこそ司法修習生を罷免され、行くあてのない彼を協力者にした」
羽場「そうです。日下部さんが、私を人生のどん底からすくい上げてくれた。たった2年間の関係でしたが、日下部さんはお前のおかげで公安検事として戦えると言ってくれた」
引用:ゼロの執行人より
コナンのセリフを受けた羽場のセリフからは、2つの重要な要素が読み取れます。
日下部の協力者になったのは3年前である
羽場は1年前に死んだことになり、表舞台から姿を消しています。
日下部の協力者として行動していたのが2年間ということですから、協力者になったのは3年前という計算になります。
橘法律事務所に事務員として雇用されたのは4年前ですから、その後に日下部の協力者になったことがわかります。
羽場を救ったのは橘境子ではなかった
司法修習生を罷免され、裁判官はおろか弁護士になる道も絶たれた羽場二三一。
事務員としてではありますが橘法律事務所に雇用され、法に関わる職場で働けるようになったことは、一見ありがたいことに思えますが…。
羽場ははっきりと『人生のどん底からすくい上げてくれたのは日下部さん』と発言しています。
つまり彼にとっては、境子に与えられた『法律事務所の事務員』という立場よりも、違法行為もいとわない『検事の協力者』としての立場の方が救いであったことがわかります。
弁護士事務所に勤務しながら、検事の協力者として動く。
それは境子への裏切り行為に他ならないはずですが…羽場の良心は痛まなかったのでしょうか。
分身とも言えるほどに似通った考え方を持っていた羽場と日下部。
もし羽場が逮捕されなかったら、その後も協力者として密接な関係を築いていたことが容易に想像できます。
羽場二三一と風見裕也
羽場二三一を橘境子の事務所で働けるようにしたのが、公安警察の風見裕也でした。
司法研修所で羽場が起こした騒動をきっかけに、公安は羽場を危険人物としてマークするようになります。
羽場の行動を監視するため、公安の協力者であった橘境子の事務所で羽場を働かせることを決めました。
風見刑事は当然公安警察としての身分を羽場に明かしてはいなかったでしょうから、身分を偽って羽場に接触し、『事務員を探している弁護士の知り合いがいる』などと言って橘境子に引き合わせたのでしょう。
そして、羽場がゲーム会社に侵入した時に彼を逮捕したのもまた風見裕也でした。
ゲーム会社で風見裕也に警察手帳を見せられた時、羽場は自分がずっと公安警察にマークされていたことを察したはずです。
公安警察の掌の上で踊らされていたことに気づいた羽場二三一。
風見裕也、つまり公安警察に対する不信感はこの上なく高まっていたはずです。
このことを踏まえると、安室透が羽場二三一の説得に成功したことのすごさがよくわかります。
一方、風見裕也は羽場二三一に対して特にこれといった感情はもっていなかったと思われます。
境子は『羽場を助けるよう公安警察に必死に頼んだ』と発言しています。
この場合の公安警察とは、彼女と接する機会があった風見裕也を指している可能性が高いです。
協力者である境子に頼まれても、法を犯した羽場を助けるわけにはいかないため、当然のこととして岩井検事に羽場を起訴するよう指示したんですね。
公安としての任務をきっちり遂行するにあたり、羽場二三一や橘境子への感情は風見裕也にとって大した障害ではなかったようです。
羽場二三一と橘境子
橘境子は風見裕也に羽場の行動を報告するように命じられ、彼を自分の事務所の事務員として雇い入れました。
雇った当初はただの事務員だった羽場二三一ですが、日下部誠の協力者になった後も何食わぬ顔で境子と一緒に働いていました。
境子にしてみれば、羽場は監視対象でしかありません。
また羽場にとっては、境子は日下部に対立する立場の人間です。
にもかかわらず、恋愛関係になっていったのだから、人の心というのはわからないものです。
知らなかったとはいえお互いに協力者同士であるという共通点により惹かれ合うようになったとしたら、なんとも皮肉なことですよね。
境子がどんな経緯で風見裕也の協力者になったのかは不明ですが、彼女も『法に背く形になっても正義を全うしたい』という意思を持って協力者を引き受けたのでしょうから、羽場二三一の考え方に通じる部分は間違いなくあったはずです。
コーヒーを置いた位置の意味
警視庁の屋上で、境子が羽場と一緒に働いていた頃を回想するシーンがあります。
そのシーンで、羽場は『刑事訴訟法』という本の上にコーヒーを置くという行動をとっています。
最初に見た時は『本の上にコーヒー置くの!?雑すぎない!?』と驚いたのですが…。
この時点で既に羽場が日下部の協力者になっていたとしたら、このシーンは
法律を軽んじる=協力者として違法行為を行うこともいとわない
という羽場の心理を暗喩していたのではないでしょうか。
この行為について、境子は何も思わなかったのでしょうか?
他にコーヒーを置くスペースはいくらでもあったと思うのですが…。
羽場二三一と岩井紗世子
ゲーム会社窃盗事件の主任検察官を務めたのが、岩井紗世子でした。
岩井検事は羽場二三一の窃盗事件を機に出世しています。
具体的に『なぜ出世したのか』ということが明らかになっていないため、疑問に思っている方もいるのではないでしょうか?
岩井検事は、日下部検事から『羽場は自分の協力者だ』と明かされても、『それでも彼を起訴します』と態度を変えることはありませんでした。
ですがこの点を公安警察に評価されたと考えるのはちょっと弱いです。
羽場は紛れもなく窃盗事件の犯人であり、起訴するのは当然のことだからです。
岩井は日下部から聞いた『羽場は日下部の協力者』という情報を公安警察に知らせたのではないでしょうか。
羽場が日下部の協力者という事実は、日下部の他には岩井しか知らなかったはず。
つまり安室透が羽場を助けるには、岩井からの情報のリークが不可欠です。
情報をリークした上で、このまま起訴してよいか公安警察の判断を仰いだ可能性があります。
公安検事でありながら公安警察の言いなりという態度が公安警察に評価され、一種の『公安的配慮』が働いて出世したということではないでしょうか。
羽場を橘境子に監視させたのと同じように、日下部を岩井に監視させるために上の立場に置いたとも考えられます。
羽場と岩井は直接的なつながりはありませんが、主任検事から統括検事に出世するきっかけを作ったという点で、実は密接に影響を与えていたんですね。
また、羽場が安室透に生かされたのは岩井あってのことですから、彼女もまた羽場の命の恩人であるわけです。
安室透が羽場二三一を助けた理由
自殺したと思われていた羽場二三一は、安室透の機転によって生存していました。
このことは日下部はおろか橘境子にも風見裕也にも、そして羽場の肉親にも知らされていませんでした。
では、そもそもなぜ安室透は羽場二三一を助けたのでしょうか?
警察・検察問わず『協力者』を死なせるわけにはいかなかった
安室透の『協力者』に対する考え方を示すセリフが、作中に2つ登場します。
- 自らした違法作業は、自ら片をつける
- どんなに憎まれようと、最後まで彼女を守れ
公安が協力者をもつこと自体は違法行為ではないでしょうが、日下部のように『データを盗んでくること』などの作業を協力者にさせることは、当然違法ですよね。
公安からの要請で違法作業をしたのに、結果として協力者本人が罪に問われることになった…。
これは安室透の信念に大きく背きます。
公安が協力者に違法行為をさせたなら、その片をつけるのは公安でなくてはならないと思い、羽場を助けたのではないでしょうか。
つまり日下部に代わって『片をつけた』わけですね。
羽場が裁判で自分が公安検察の協力者だと暴露する可能性を潰すため
羽場は取り調べでは、自分が日下部の協力者であることを黙っていました。
日下部を守るため、羽場には自分が協力者であることを明かすつもりはありませんでしたが…。
公安警察にしてみれば、羽場が取り調べや裁判の場で『自分は公安検事の協力者である』という事実を暴露する可能性を考慮したはずです。
協力者の存在が公になるのは非常にまずいですから、その可能性を潰すために羽場が今後取り調べや裁判を受けないよう取り計らった=自殺を偽装した、ということも考えられます。
風見裕也および橘境子の尻ぬぐいをした
公安警察は羽場二三一を要注意人物とし、風見裕也の手引きで橘境子に監視させていました。
この2人の目をかいくぐって日下部が羽場を協力者にしたということは、風見と境子が羽場の監視に失敗したということになります。
- 風見と境子では羽場を監視しきれなかった
- しかし羽場を裁判で有罪にするわけにもいかない
この2つの理由から、安室透は『では自分が羽場を監視すればいい』と考えた可能性があります。
羽場を自分の協力者にしておけば、堂々と羽場の行動を監視することができますからね。
実際のところ、安室透が羽場にどのような協力をさせているのか不明ですし、そもそも安室透本人ではなく誰か別の公安警察官の協力者になっているのかもしれませんが…。
風見裕也に羽場の生存を伝えなかった理由
羽場が生存していることは、安室透以外の人間には知らされていませんでした。
日下部に伝えられなかったのは『もう二度と公安検事が協力者を作らないようにするため』ですよね。
羽場の肉親や橘境子に伝えなかったのは、彼らに伝えてしまったら『これまでの人生を放棄する』ことにならず、死の偽装ができないためです。
ではなぜ、公安警察である風見裕也には知らされなかったのでしょうか?
安室透が風見裕也を信頼していなかったから…という理由はあんまりですから(笑)やはり風見裕也経由で橘境子に話が伝わることを恐れたのでしょう。
羽場二三一に関わったことのあるすべての人間に、羽場は自殺したと徹底して伝えたかったのでしょうね。
風見裕也は安室透が羽場二三一を自殺させたと本気で信じていました。
コナン相手に『安室透という男は人殺しだ』とまで言ってしまうほど、安室を『本当に恐ろしい人』と思っていた風見ですが…その安室の下で忠実な部下として働いていますよね。
私情をはさまず、淡々と上司の指示に従える器を持っています。
コナンに盗聴器をつけられて安室透に『これでよく公安が務まるな』と言われてしまいましたが、相手がコナンでなければ風見裕也も非常に優秀な公安警察官です。
『ゼロの執行人』後の羽場二三一
羽場二三一が実は生きていたことを知った橘境子ですが…。
個人的に、羽場と境子が再会することはないと思います。
風見が差し出した羽場の居場所のメモを境子が受け取らなかったことを考えても、境子の方が『羽場には会わない』判断をしたと受け取れます。
羽場の住所を風見が知っているわけがありませんから、あの時渡そうとしたメモに書かれていたのは阿笠邸の住所だったのではないかと思われます。
『今なら』羽場はそこにいるから会いにいけと、風見は言いたかったんですね。
ドローンに爆弾を持たせる関係で風見と阿笠博士は連絡を取っていましたから、その際に住所をメモしたものと思われます。
日下部や風見、境子には生存を知られてしまいましたが、羽場が表舞台からは姿を消した人間であることに変わりはありません。
これからも羽場二三一ではない別の人間として、安室透や公安警察の協力者として生きていくのではないでしょうか。
公安の協力者である以上、安室透に『何があっても最後まで』守ってもらえる立場にいるわけですよね…。
そう考えると、羽場二三一が少し羨ましい気がします(笑)
さいごに
『ゼロの執行人』に登場するオリジナルキャラクターたちは、それぞれの魅力に満ち溢れています。
ですが羽場二三一だけは、特殊な設定に置かれているためか、登場してくるのが後半なためか、何度映画を見てもどことなく不気味で不思議な人という印象がぬぐえません。
あれこれ考察してみましたが、『こんな考え方もできるのでは?』という意見がありましたら、ぜひお寄せいただけると嬉しいです。
江戸川コナンや安室透の活躍に目を奪われがちな『ゼロの執行人』ですが、羽場二三一に注目して見直してみると、あらたな発見があるかもしれません。
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